6月は台風6号【チャンミー】から始まり、直接本土にぶつかるのではといった話もありましたが、無事に回避されたというのが6月の1週目です。
台風が来るため、調べ学習をていたところ、台風には名前があるのだということを知り、それは台風委員会によって各国が10個ずつ台風に名づけていることにがわかりました。日本ではよく分からない名前であっても、現地では信仰深いものや神話になぞられたものが用意されていることが、前回の中国の台風名から分かりました。もしよければ閲覧ください。

今回は韓国の台風名について調べてみようと思います。韓国の台風は下の表を見るように生物の名前を台風の名前に挙げる傾向があります。台風名と韓国にはどのようなつながりがあるのでしょうか。早速調べていきたいと思います。

ケーミー(蟻)
韓国の民話に【蟻(ゲーミー)の腰が細くなった理由】というものがあります。簡単に紹介します。昔の蟻は今とは異なり、ずんむぐりとした太い体型をしていた。ある日、秋の収穫のために、一生懸命に自分の何倍もある大きな米粒を背負って道を歩いていました。仕事をしている様子をバッタが見て、「そんなに必死に働いてどうするのだ」とからかわれますが、蟻は「今働かないと、冬を越せないから」と堅実的に働くというものです。ここまでは【アリとキリギリス】の民謡と同じですね。
冬を越せた話を他の動物にしたときに、蟻自身が大笑いをして、その拍子に腰の帯(紐)をギューッと強く締めてしまったというものです。結局、自分の頑張りを豪語すると自分自身に返ってきてしまうというものなのです。
また、韓国の口伝神話に【木道令(ムクドリョン)と大洪水】があります。この神話は、世界が一度大洪水で滅び、そこからどのように現代の人類が始まったのかを描いた【人類起源神話】となります。天の仙女と巨木の間に生まれた【木道令】は世界を襲った大洪水の際、引き抜かれた父に乗って流されていた。途中で溺れかかっていた蟻の群れを見つけ、木道令は彼らを助け、貴に載せる。その後、蚊の群れや一人の人間の少年も救いました。
水が引き、ある島(山頂)に上陸すると、おばあさんと娘がいました。少年は娘と結婚したいがためにおばあさんと手を組み、木道令に「広大なキビ畑にばら撒いた穀物の種を夕暮れまでにで一粒残さず集めて器に戻せ。でないと娘とは結婚させない」といった不可能な試練を課します。そこで助けた蟻が恩返しとして木道令を手伝い、試練を泣く泣くクリアします。木道令と娘が結婚し、二人から生まれた子孫が、大洪水以降の現代の人間の祖先であるとされています。
水害や飢饉といった非常において蟻は力になることを伝えたいのかもしれません。
ナレ(羽)
韓国語で羽を指す単語です。言葉の響から、「未来へ羽ばたく」「翼をつけて飛躍する」といった前向きで美しいイメージを持つ言葉です。また、韓国の神話や信仰において、「羽」や「翼(鳥)」は、天上(神の世界)と地上(人間の世界)を行き来する「神の使者」や「魂の乗り物」として非常に重要な意味を持ち、【世界の始まりと「羽ばたく巨鳥」】や【三足鳥(サムソゴ)】、【光り輝く翼】といった言い伝えがあります。
【羽ばたく巨鳥】は韓国の創世神話にあたり、天地は初めくっ付いていて一括りの状態であり、日月がなかったので昼夜の区別もなく真っ暗な状態であった頃、巨鳥の天皇鶏、地皇鶏、人皇鶏が頭をあげ、鳴きながら、羽を羽ばたいて新天地に飛ぼうとする姿が天地の境を生まれ夜が明けた、といった物語です。【羽ばたき】は、混沌とした世界を動かし、新しい命や光を生み出す始動の象徴のことを指すようです。今季のアニメ【ニワトリ・ファイター】はこの辺がモチーフなのかなって思いました。
【三足鳥(サムソゴ)】は高句麗の神話や壁画に多く登場する、太陽のなかに棲むと信じられていた、3本の足を持つ伝説の黒い鳥のことです。神話において、その黒い羽と翼は「太陽のエネルギーそのもの」を表し、当時は龍や鳳凰よりも上位の【天の最高神の使者】として崇められ、国の王権や繁栄の象徴でもあったそうです。日本神話に登場する【八咫烏(ヤタガラス)】と姿が重なります。
【輝く翼】は新羅(しらぎ)の建国神話で、初代国王の【朴赫居世(パク・ヒョッコセ)】の誕生には、白馬と鳥の羽が関係しています。 神話によると、大きな光る卵の前に一匹の白馬がひざまずいており、人々が近づくと馬は「天へ向かって羽ばたき、飛び去った(または消えた)」とされています。卵から生まれた王の体からは光が放たれ、鳥や獣が舞い踊ったという、天の加護(羽のイメージ)を象徴しています。
韓国神話における羽には【宇宙の始まり】【太陽の力】【天と地を繋ぐ魂の架け橋】という意味が込められた、とても神聖なモチーフがされているようです。また、韓国の国鳥は【カササギ】で、吉兆を呼ぶ鳥とされています。【七夕伝説】においても天の川を作るためにカラスとカササギが羽と体を合わせて橋を作ったという伝説が残されています。
このように、【羽】と台風は再生とか、エネルギー的な存在といったパワフルな側面を象徴しているのかもしれません。
ナーリー(百合)
韓国の民話や民間信仰において、ユリ(ナリ)は「神聖・純潔・再生」の象徴として扱われることがあるようです。韓国のシャーマニズム(巫俗信仰)や民話において、ナリは「魂の浄化」や「死と再生(生まれ変わり)」を司る神聖な花とされています。大地(あの世・地下)に隠れた球根から、春に芽を出し、夏にまばゆい花(この世)を咲かせるサイクルが、人間の魂の輪廻転生と重ね合わされました。
他方、韓国の仏教美術や民間伝承では、ナリは「精神的な目覚め(神聖さへの到達)」を表すシンボルとされています。泥や荒れた土壌から気高く一本の茎を伸ばして咲くことから、世俗の汚れに染まらない高潔な魂、あるいは子供を無償の愛で育てる「母性・守護」の力を持つ花と信じられてきました。
また、花言葉は、【純潔と清らかな心】、【変わらぬ愛】【誇り・権威】と主にその色や自生する姿に由来しているようです。
これらの事から、一掃する台風は穢れを払うといった意味も含まれるのかなと、ナーリーをみながら想像してしまいました。
ノグリー(たぬき)
民間伝承の中でタヌキは「非常にずる賢く、一筋罠ではいかない、陰険で油断ならない動物」と狡猾そうなイメージがあります。韓国に生息するタヌキは【タイイリクタヌキ】のグループに分類され、朝鮮半島全域に自然生息しています。狸の天敵である敵(大型獣類)や競合する狐が激減したため、野生下において非常に繁殖しやすいそうです。
近年では、【アーバン・タヌキ:都市型タヌキ】が増え、ソウル市全体面積の約32%がタヌキの生息可能地域となっており、全25区のうち24区で生息が確認されています。日本においても、クマの都会出現が問題となっていますが、韓国においてはタヌキが問題(疥癬及び狂犬病)となっているようです。
韓国において身近にいるタヌキですが、現代の問題として警戒の解けない相手として、台風名に選ばれたのかもしれません。
チャンミー(ばら)
韓国でもバラは非常に人気の高い花で、5月〜6月頃にはソウルをはじめ各地で「バラ祭り(チャンミチュクチェ)」が開催されます。韓国においてもバラの花言葉は色や本数で異なる意味合いを持つようです。今度どこが違うのか比較してみたいですね。
また、5月14日に【ローズデー】という独自の記念日があり、恋人同士が改めてお互いにバラの花束を贈って愛情表現をする日です。片思い中の人がこの日に赤いバラを贈って告白すると成功率が上がるというジンクスもあり、5月14日は韓国中の街角や花屋がバラで溢れかえるそうです。
新羅時代の歴史記録『三國史記』に記された【寓話:花王戒(花王への戒め)】という話があります。【花の王:牡丹(ボタン)】のもとに、二人の人物(翁草:みすぼらしい格好をしながらも忠言を尽くす、薔薇:絶世の美女に化けている)が来ます。
バラは「赤い顔と玉のような歯、美しい衣服をまとって、王様を退屈させない快楽を提供します」と王を誘惑し、王はその美しさに溺れそうになります。最終的に「美しいバラの誘惑に負けず、地味でも正しい意見を言う翁草を重用しなさい」と諭される物語です。薔薇には警戒を解くような誘惑をするのかもしれませんが、それが教訓として今があるのかもしれません。
このように、薔薇自体は韓国でも非常に親しまれる植物である一方で、「美しいものには刺がある」といった警戒を意識づけるものとしてあるのかもしれません。また、台風の形状がバラの花びらのように何重もの構造になっているため、選出されたのかな、と思いました。
ケナリ(花の名前)
ケナリは韓国の春を代表する非常にポピュラーな落葉低木のことを指します。日本名だと【チョウセンレンギョウ】と呼ばれる品種です。寒さや大気汚染、病害虫に非常に強く、折れた枝を土に挿すだけで簡単に根付く(挿し木)ほど生命力が旺盛です。そのため、道路の街路樹や生け垣として国中に植えられています。 ものすごく生命力のある植物のようです。ケナリの代表的な花言葉は【希望】【深い愛情】【期待】と言ったものが挙げられています。また、ケナリに関する逸話はいくつかあります。
【昔話:ある貧しい親子の伝説】は、ある村に、大変貧しい母親と3人の子供たちが暮らしていました。父親を亡くし、母親が必死に働いても食べるものがなく、いつも飢えに苦しんでいました。ある厳しい冬の夜、ついに食べるものが完全に底をつき、薪(まき)もなくなってしまいました。母親は子供たちをきつく抱きしめ、お互いの体温で暖め合いながら、静かに眠るように息を引き取ってしまいました。
次の年の春、親子が息絶えたその家は跡形もなく消えていましたが、家があった場所に、それまで見たこともない鮮やかな黄色の花を咲かせる植物が生えてきました。その細い枝が、まるでお互いを抱きしめ合っていた親子の腕のように絡み合っていたことから、人々はこれを「ケナリ」と呼び、親子の魂が春の光となって生まれ変わったのだと信じました。
【昔話:ケナリと魔法のザル】は、ある村に非常にケチで欲深い富豪が住んでいました。ある日、お寺の僧侶(神の化身とされる)が家を訪れ、お布施(米)を求めました。しかし富豪は「やる米などない!うちにはケチな『犬のフン(韓国語でケトン)』くらいしか置いていないわ!」と怒鳴り、僧侶を追い払いました。 僧侶が次に隣のとても貧しい家を訪れると、貧しいながらも主人は快く温かい食事をもてなしてくれました。僧侶はお礼に藁(わら)で編んだ小さなザルをプレゼントして去っていきました。すると不思議なことに、そのザルからは米が無限に湧き出し、貧しい家はたちまち大金持ちになりました。
これを激しく嫉妬した富豪は、翌年再びやってきた僧侶に「これでもか」と大量の米を差し出し、無理やり魔法のザルを要求して奪い取りました。しかし、富豪が家でそのザルを開けると、中から湧き出てきたのは米ではなく、昨年自分が吐き捨てた「大量の犬のフン(ケトン)」でした。 驚いた富豪がそれをすべて庭の垣根に投げ捨てると、翌年の春、その場所からフンと同じ鮮やかな黄色の花を咲かせる細い木が生えてきました。人々は、富豪が吐いた暴言(ケトン)から生まれた素朴な百合(ナリ)のような花という意味で、これを「ケナリ(개나리)」と呼ぶようになりました。
【インド由来の帰化伝承:「鳥の飼育」に執着した王女】は、鳥が大好きなある美しい王女は世界中の珍しい鳥を集めて黄金の鳥籠で飼っていましたが、まだ見ぬ「世界で最も美しい鳥」を探し求めていました。ある日、一人の老人が、見たこともない七色の美しい羽を持ち、極上の声で鳴く鳥を連れてきました。王女は大喜びして大金を払い、その鳥を黄金の籠に入れて溺愛しました。
しかし数日後、鳥が汚れたため水で洗ってみると、実はそれは「全身にカラフルな偽物の羽を貼り付け、喉に細工をされたカラス」でした。騙されたショックと悲しみで王女は病気になり、そのまま亡くなってしまいました。王女が息を引き取ったあと、その「黄金の鳥籠」が置かれていた場所から、鳥籠の格子のように細く絡み合う枝が伸び、籠の飾りそっくりの鮮やかな黄色の花が咲きました。これがケナリの始まりとされています。
このように、儚い物語の終わりにケナリが登場する場面が多いです。また、生命力が強く、再生能力も高い植物であるため、台風で被害があったとしても立て直しができる植物を忘れないためにも名づけをしているのかもしれません。
ミネリ(天の川)
韓国では天の川を漢字語で「ウナス(은하수)」と発音しますが、古くから伝わる美しい純韓国語(固有語)では「ミリネ(미리내)」と読みます。そのため、ミリネとは「天を昇る神聖な龍が住む川」という意味です。韓国の民間信仰において、龍は天候や水を司る最高位の神聖な獣であり、天の川は【龍が天を行き来するための道】として崇められているようです。
カササギのところで書いたので割愛しますが、韓国の七夕伝説があります。また、【七夕の雨(チルソクピ)】の伝承において、七夕の日に降る雨を「2人が再会できた嬉し涙」、翌朝に降る雨を「再び離れる悲しみの涙」と呼び、天の川の水量と天候を結びつける風習が今も残っています。
また、巫俗信仰(シャーマニズム)において、天の川は、【あの世への境界線】とされ、「この世(現世)とあの世(来世)を隔てる聖なる境界線」と信じられています。
さらには、神話の【死者の魂を導く女神バリ姫(バリコンジュ)】において、死後の世界へ向かう途中に、生者には見えない「巨大な光る川(天の川の暗喩)」が登場します。これを無事に渡るための、韓国の伝統的な葬儀(あの世への旅路を祈る儀式)では、天の川の神に祈りを捧げる演目が重要視されているようです。
天の川には、龍が行き来するような危険のある場所であり、それを伝えるための台風名が提案されたのかな、と思いました。
コザリ(ワラビ)
ワラビ(蕨)は、韓国の食文化、伝統行事、そして神話や民間信仰において非常に重要なステータスを持つ特別な植物で、秋のお盆(チュソク:秋夕)や、先祖を供養する法事(チェサ:祭祀)の祭壇には、コサリのナムルが絶対に欠かせない必須の供物とされています。【生命の象徴】と【再生の信仰】の2つの信仰があります。
「先祖と子孫を繋ぐ」生命の象徴において、ワラビは地上に芽を出すとき、頭(葉)を丸く巻き、地中へ深く根を張り、この姿が「先祖が子孫をしっかりと抱きかかえ、血の繋がり(根)を絶やさないこと」を表すとされ、一族の繁栄を祈る縁起物として神聖視されているというものです。
「生まれ変わり(再生)」の信仰において、ワラビは一度地上部を刈り取られても、あるいは山火事で地面が焼けても、翌春には真っ先に力強く芽を吹き返し、この圧倒的な生命力が、シャーマニズムや仏教における「魂の不滅」や「輪廻転生(死と再生)」の思想と結びつき、霊的なパワーを持つ山菜として扱われているそうです。
また、【ワラビの雨(コサリマジュン:ワラビを迎え入れる雨)】の伝承があります。済州島では、4月頃に降る春の長雨をコサリマジュンと呼び、この雨が降ると山の神の恵みによって一斉に最高級のワラビが芽吹くと信じられており、島民にとっては神聖な自然のサイクルのようです。
ワラビは韓国において、繁栄や再生といった恵みをもたらすものであり、台風や雨といったものがもたらすポジティブな側面が大きいのかもしれません。
ホードゥー(クルミ)
韓国におけるクルミの立ち位置は古くから親しまされる伝統的な健康食材で、【異国から伝わった聖なる木】【悪霊を音で退散させる魔除け】【知恵を授ける縁起物】として、知られています。
高麗時代に流清臣(ユ・チョンシン)という高官が、当時の元(中国)へ使臣として派遣されました。彼は帰国する際、中国で見た珍しい「クルミの苗木と実」を持ち帰りました。苗木は天安にある【高山寺院:広徳寺(クァンドクサ)】の境内に植えたことが起源で、現在でも、国の天然記念物(第398号)である【樹齢400年を超える巨大なクルミの木】として神聖視されています。
民間信仰として、クルミは【悪鬼(悪い霊や病気)を追い払う強力な呪術道具】として扱われていました。旧暦1月15日の最初の満月の日を「正月(テボルム)」と呼び、1年間の無病息災を祈る重要な神事を行う日があります。この日の朝、クルミやピーナッツなどの固い殻を持つナッツ類を、自分の年齢の数だけ「ガリッ!」と音を立てて噛み砕く【プロム】という儀式をするらしいです。昔は恐ろしい皮膚病(おできや疥癬など)は悪霊の仕業と考えられていたため、固い殻を噛み砕くことで「今年1年、皮膚が固い殻のように強くなり、病気にかかりませんように」という魔除けの祈りが込められています。なんだか日本の行事でも節分がプロムと関係しそうです。
古い韓国の家庭では、部屋にクルミの実(2個1組)を置いておく風習がありました。2つのクルミを手のひらで転がしてカチカチと音を立てることで、家の中の悪い「気」を浄化し、家族が喧嘩せずに仲良く暮らせる(家和万事成)というお守りとしての意味が込められているようです。
クルミは9月上旬から10月中旬にかけての秋の時期であり、韓国に到来する台風の時期と重なります。そのため、クルミの収穫期と結びつけて、台風名を選んだのかもしれません。
ポリ(大麦)
大麦は単なる一つの穀物ではなく、「貧しさと飢えを乗り越えてきた民族の歴史」そのものを象徴しています。朝鮮半島へは今から約3000〜3500年前の無文土器時代(青銅器時代)に中国大陸から伝わったものです。大麦は厳しい冬の寒さや乾燥に耐える強さを持つため、特に朝鮮半島南部を中心に、重要な食料源として定着していきました。
神話の世界において大麦は「天界から授けられた命の種」や「絶望からの復活」のシンボルとして描かれているようです。
韓国において大麦は生活を保つために必要な食料であり、飢饉の救済といった恵みをもたらすものとして台風名に込めたのかもしれません。
台風名を中心に韓国との関連性を調べてみました。多くのエピソードに、悲劇や苦難から復活(再生)を中心としたものや、縁起のよいもの、韓国の歴史と深く関連する生物が台風として名づけているように感じます。
少しづつ伝説や伝承を紐解きながら、その国が選んだ台風名の背景を知っていきたいと思います。



コメント