ベトナムの台風名に込められた意味とは

ブログ

こんにちは、相変わらず雨が続いています。今月初旬から梅雨だと報告があったようですが、この雨が続く1週間を体験すると、「あー、梅雨が来たのだ」と感じざるを得なくなります。台風が来ると、ジメジメとした湿気を風で回収していくため、早く通り過ぎないだろうかと願っています。

前回は【フィリピン】の台風名を紹介しました。フィリピンが選んだ台風名は【台風の行動】や【台風による被害】を表現した単語が選ばれていました。読まれていない方はお読みください。

フィリピンの台風名に込められた意味とは
6月の台風に関するシリーズ第9回ではフィリピンを紹介。台風名には動名詞や形容詞が多く、文化や歴史を反映。たとえば「マリクシ」は「速さ」を意味し、早く過ぎ去ることを願う思いを表現している。他にも台風の特性を示す名前が多い。

今回は【ベトナム】の台風名の紹介です。ベトナムは植物や土地に関係するものが台風名に挙げられています。1つずつ調べて、どのような傾向があるのか紹介していきたいと思います。

ソンティン(ベトナム神話:山の神)

【ソンティン】は、山の神であり、ベトナム民間信仰における【四不死(不滅の4神)】の一人です。簡単に紹介します。

  • ソンティン:自然(洪水)への勝利・不屈の精神
  • タイン・ゾン:愛国心・若者の力・国防
  • チュー・ドン・トゥ:孝行・純愛・豊かさ(商業・医療)
  • リュウ・ハイン:精神生活・女性の権利・幸福

【四不死】が登場する神話に【ソンティン・トゥイティン伝説】といった有名な戦いがあります。

古代ベトナムの国王フン王(雄王)には、【王女:ミーヌオン】がいました。ある日、彼女に結婚を申し込むため、【山神:ソンティン】と【水神:トゥイティン】が宮廷に現れます。2人の神様は優秀だったため、困ったフン王は「明日の朝、先に素晴らしい結納の品(宝石や珍しい動物など)を持ってきた者に娘を嫁がせる」という条件を出しました。

翌朝、【山神:ソンティン】が僅かに早く到着し、【王女:ミーヌオン】と結婚して彼女を山へと連れて行きました。遅れてやってきた【水神:トゥイティン】は、激しい怒りと嫉妬に燃え上がりました。怒ったトゥイティンは、海の生物の軍勢を率い、激しい嵐と大雨を降らせて地上の水位を上げ、王女を奪い返そうとしました。

これに対し、ソンティンは「水が上がれば、それよりも高く山をそびえ立たせる」という神力で対抗しました。トゥイティンがどれだけ洪水を起こしても、ソンティンはそれを超える高さへと山や丘を押し上げ続けたため、ついに水の神は諦めて退却せざるを得ませんでした。

このように【ソンティン】は、水害から守ってくれた山の神様であり、ベトナム人に台風名することで【ソンティン・トゥイティン伝説】を思い出してもらおうとしているのかもしれません。

ホアバン(花の名前)

【ホアバン】は、【一途の愛・不滅の忠誠心】【強靭な生命力・不屈の精神】【純真・気高き美しさ】といった花言葉で、毎年3月から4月頃、北西部のディエンビエン省などでホアバンが満開になる季節に盛大なお祭りが開催されます。

【ナン・バンとチャン・クム】といった【ホアバン】を題材としたベトナムの伝承があります。

昔、ベトナム北西部の村に、【バン】と【クム】という少女と少年がいました。2人は将来を誓っていましたが、バンの父親はクムが貧しいことを理由に結婚を反対し、地元の裕福な役人の息子と結婚させようとします。絶望したバンは、助けを求めにクムの家に向かいますが、クムは出稼ぎで留守でした。バンは結婚を回避するために、自分の家の階段にクムへの愛の印として1本のウールのスカーフ( khăn piêu )を縛り付け、一人で深い夜の山へと逃げ込みました。

バンは山を越え、谷を渡り、クムを探して必死に叫びながら歩き続けましたが、ついに力尽きて崖の上で息を引き取りました。彼女が倒れた場所から、白く美しい花を咲かせる一本の木が生えてきました。これが【ホアバン】です。一方、クムは、事態を察してすぐに山へバンを捜しに走りましたが、彼は彼女を見つけることができませんでした。哀しみのあまり命を落とし、【クム鳥】という、春になると恋人を呼ぶように優しく鳴く鳥へと生まれ変わりました。

ロミオとジュリエットみたいな伝承ですが、【ホアバン】には【気高い精神】がベトナム人に続いているのかと思います。台風と結びつけるには【不屈の精神】といったところでしょうか。台風の被害に負けないといったベトナム人の意思が台風名になったのかもしれません。

コメイ(草の名前)

【コメイ】は、オキナワミチシバの一種であり、花言葉は【鋭い痛み(遠距離恋愛の苦しみ)】【一途な愛の記憶】【無邪気な子供時代】といったものが挙げられています。

コメイにも伝承があります。【ホアバンの伝承】と同じように身分違いの男女が恋仲になります。【ホアバンの伝承】と異なるのは駆け落ちをし、小さな家で生活を共にすることができたのですが、男が出稼ぎから帰ってこなくなり、女が【コメイ】に転生するという話です。

ベトナムにおける台風のテーマに一貫性が見られにくいですが、今のところ何かしらのベトナムの伝承があることなのかもしれませんね。

ハーロン(湾の名前)

【ハーロン】は、ベトナム北部にある世界自然遺産であり、その地名の由来にもなっている【龍の親子が舞い降りた伝説:下龍伝説】といった伝承があります。

かつてベトナムが北方の外敵に侵略され危機に瀕した際、天帝の遣わした母龍と子龍たちが海に舞い降りました。龍たちが口から吐き出した無数の宝石が海中で巨大な石灰岩の島々(奇岩)に姿を変え、侵略者の船団を砕く防壁となって国を救ったとされています。戦後、この地を気に入った母龍は「ハーロン(下龍)湾」に、子龍たちは「バイトゥー(拜子龍)湾」にとどまったという物語が、現在の美しい景観の由来であるそうです。

ちなみに、ベトナムにおける【龍】は単なる架空の怪物ではなく、【民族の祖先】【王の権威】【雨や繁栄をもたらす神聖な存在】として、精神世界の根幹に位置づけられているようです。

このように、【ハーロン】は龍の神話に基づいて作られ、外界から身を守る湾となっているようです。台風から守って貰えるように名づけたのかもしれませんね。

バービー(ベトナム北部の山の名前)

ベトナムのハノイ近郊にある名峰【バーヴィ山】には、ベトナムの精神世界の頂点に立つ【山の神ソンティンの生誕と隠居の伝説】が深く刻まれているようです。

【水神:トゥイティン】がいくら水位を上げても、【山神:ソンティン】は自分の住むバーヴィ山をそれ以上の高さへと押し上げ続けました。激しい戦いの末にソンティンが勝利したため、バーヴィ山は【ベトナムのすべての山の祖(始祖)】【水害から国を守る聖なる盾】として崇拝されるようになりました。現在でも山頂付近には、ソンティンを祀る神聖な【上宮】が鎮座しています。

ソンティンが山の神としての強大な神力を得た際、彼の並外れた徳と力を讃えるために、天界から2人の神(彼の義理の兄弟とされる神々)が地上に舞い降りました。この【3人の神々が一体となって国を守るために姿を変えたもの】が、現在のバーヴィ山の3つの峰(ブア峰、タンビェン峰、ゴックホア峰)であると言い伝えられています。

このように、【バービー】は水害から身を守る山として知られています。ベトナムの人にとっては神聖な山として台風名にされているのだと思いました。

バンラン(花の名前)

【バンラン】の花言葉は、【初恋(不成就の恋)】【学生時代の思い出(友情)】【不屈の生命力】で、5月頃に開花するため、学校生活や青春の記憶と深く結びついた特別な花として愛されています。ベトナムの学校制度は9月始業で5月終業のサイクルとなっているため、このような花言葉が用いられているのかもしれないですね。

また、ベトナムの民間伝承において、天界を統べる玉皇大帝の末娘(12番目の王女)にまつわる物語(バンラン伝説)があるようです。

玉皇大帝は娘たちに、地上の【花の女王】になる特権を与えました。他の姉妹たちが薔薇や蘭など華やかな花を選ぶ中、紫色が大好きだった末娘は「紫色の控えめな花(バンラン)」を選びました。ある日、彼女は地上で暮らす貧しくも才能豊かな一人の書生と恋に落ちます。書生もまた、彼女の象徴であるバンランの紫色の美しさに心奪われていました。

二人は強く結婚を望みましたが、神と人間の身分違いの恋を玉皇大帝が許すはずはありませんでした。引き裂かれた王女の深い哀しみと、彼を想う一途な涙が地上に降り注ぎ、現在の【バンランの紫の花】をより一層、切なく美しく染めたと言い伝えがあります。

【バンラン】の開花の時期はベトナムの人たちにとっては、別れの季節であるそうで、それが逸話になります。ベトナムの台風シーズンは7月から11月であるため、バンランのピークが終わる頃に台風が訪れる、といった認識があって名づけたのかもしれませんね。

ルックビン(紫色の花が咲く水草)

【ルックビン】と呼ばれる水草の花言葉は、「一途な愛」「漂流する運命への不屈の精神」「大らかさと許し」です。ベトナム南部(メコンデルタ地方など)の広大な水網地帯を代表する非常に身近な野生の花であり、水面にぷかぷかと浮かびながらたくましく生きる姿に由来した深い意味を持っています。

【ルックビンの伝説】は先程に紹介した【ホアバンの伝承】や【コメイの逸話】と同じように恋仲になるも引き裂かれてしまうと言う話です。ただ、結末が異なり、ルックは逃げ出そうとビンとの約束の場に辿り着くも兵士に囲まれてしまいます。二人は「生きて引き裂かれるくらいなら、死んでも離れない」と誓い合い、固く抱き合ったまま激流のメコン川へと身を投げだし、川の神が【ルックビン】へと変身させたという話です。

また、【ルックビン】は、基本的には一年を通じて(四季を通じて)花を咲かせることができますが、最も美しく一斉に咲き誇るピーク(開花時期)は毎年5月〜6月頃(初夏)、および9月〜12月頃(季節の変わり目・乾季の始まり)です。

【ルックビン】はベトナムでよく見られる植物であるそうですが、花言葉は固い意思を感じさせます。【ルックビン】をもう少し調べてみると、排水機能を麻痺させるほど、根を張る植物ではありますが、土砂崩れや川岸の侵食を防ぐ緩衝材的な役割を果たすようです。どうやら水害への防波堤であつたようです。台風がやってくると、【ルックビン】が流れてきて、水害を知らせてくれたため、名づけられているのかもしれませんね。

ソングダー(北西ベトナムにある川の名前)

【ソングダー】は、ベトナム北西部を流れるホン川の最大の支流であり、国家のエネルギー供給を支える【電気の源】として極めて重要な川であり、国内トップクラスの規模を誇るソンラ水力発電所や、かつて旧ソ連の支援で建設された歴史的なホアビン水力発電所など、複数の巨大ダムがこの川に建設されています。

【ソングダー】には【建国神話:龍と仙女の伝説】の出会いの場であったり、【ダンハウの奇岩伝説】の誤解として雷に打たれた親子の岩であったりとベトナムの人にとっては観光スポットであるようです。

また、かつてベトナム国内で「最も狂暴で危険な暴れ川」と恐れられ、首都ハノイをはじめとする紅河デルタ地帯に壊滅的な水害(洪水)をもたらしてきた歴史を持っていましたが、巨大ダムによる治水計画として、ホアビンダム(1994年 完成)やソンラダム(2012年 完成)と計画的なダムの建設がされることで保たれているようです。

【ソングダー】は発電所として機能を果たす一方で、少し前までは水害のある川であったようです。このように、現在は安全な場であるけれども気にしておかなければならない場所を台風名にしたのかもしれません。

ソンカー(さえずる鳥)

【ソンカー】には、【美しい声で鳴く鳥(ヒバリ)】という意味と、ベトナム北中部を流れる【大河(ラム川)】という、2つの全く異なる重要な意味があります。今回はヒバリの美しい鳴き声のことを指します。【天の歌声を授かった鳥の伝説】があります。

むかしむかし、世界のすべての鳥たちが集まる森があり、どの鳥も自分の羽の美しさや声の良さを競い合っていました。その中で、のちに【ソンカー】と呼ばれるようになる小さな鳥は、見た目も地味で、声も小さく、他の鳥たちからいつもからかわれていました。しかし、この小さな鳥はとても心優しく、毎日、病気になった森の木々や、日照りで枯れそうな花々に寄り添い、彼らを励ますために一生懸命に歌を歌い続けました。その無欲で純粋な優しさを天界から見ていた「太陽の神」は深く感動し、彼に「世界で最も美しく、聞いた者すべての心を癒す天上の歌声」を授けました。という伝承です。

ベトナムの伝承には、慈悲深い神様がたくさん登場しているようにも感じます。星座のお話は「天に上げて星にしました」といった表現で伝承に残るので、どこの逸話もそのような作り方をしているのではないかと、思ってしまいます。

また、南シナ海のスプラトリー諸島にある、ベトナムが実効支配している島に【ソンカー島】があることや、地元には【ソンカー・コンテスト】といったヒバリたちの鳴き声の美しさや、バリエーションの豊かさを競うコンテストがあります。

このように、【ソンカー】はベトナムの人たちにとって馴染み深い鳥でありますが、台風名にする教訓はあるのでしょうか。ベトナム文化をもう少し知ることで【ソンカー】への理解が深まるかもしれませんが、一度ここまでで留めておきます。

サオビエン(ヒトデ)

【サオビエン】はベトナムのビーチでよく見られますが、5月から10月の台風シーズンでは海が荒れて水が濁り、ヒトデはすべて海の奥深くへ避難してしまうため、この時期に行ってもヒトデはほぼゼロになるそうです。

ベトナムの古い民間伝承には、なぜヒトデが星と同じ形をしており、夜に砂浜へ上がってくるのかをロマンチックに説明する物語として、【天から落ちた星の伝説】があります。

天界の星たちは毎夜、美しい光で地上の世界を照らしていましたが、彼らには一つだけ不満がありました。それは、自分たちの美しい姿を間近で見てくれる人間が誰もいないことでした。ある夜、何人かの好奇心旺盛な星たちが、「もっと人間の近くで美しく輝きたい」と願い、天の川から暗い海の底へと飛び降りました。しかし、冷たい海の中では天界の光を放つことができず、彼らは硬い石のような生き物(ヒトデ)に変わってしまいました。

このように、【ザオビエン】は台風の時期に去るといった特性があるため、ベトナムの人たちの台風が来る指標にしていたため、名づけられていたのかもしれませんね。

さて、10個の台風名からベトナムについて紹介していきました。台風名にまとまりがありそうな感じがしますが、【ソンカー】で少し台風との関連性が見えなくなってしまいました。10個の台風名の要点を下にまとめましたので、今一度どんな分類にできそうか、考えてみたく思います。

  • ソンティン(ベトナム神話:山の神):山の神、ベトナム民間信仰における【四不死(不滅の4神)】の一人
  • ホアバン(花の名前):【一途の愛・不滅の忠誠心】【強靭な生命力・不屈の精神】【純真・気高き美しさ】、【ナン・バンとチャン・クム】→ホアバンとムクドリに転生
  • コメイ(草の名前):【鋭い痛み(遠距離恋愛の苦しみ)】【一途な愛の記憶】【無邪気な子供時代】、コメイに転生
  • ハーロン(湾の名前):下龍伝説→島を守った逸話
  • バービー(ベトナム北部の山の名前):【3人の神々が一体となって国を守るために姿を変えたもの】→山神ソンティンの伝承
  • バンラン(花の名前):バンラン伝説→神と人の失恋物語
  • ルックビン(紫色の花が咲く水草):【ルックビンの伝説】→ルックビンに転生
  • ソングダー(北西ベトナムにある川の名前):国家のエネルギー供給を支える【電気の源】として極めて重要な川、【建国神話:龍と仙女の伝説】【ダンハウの奇岩伝説】
  • ソンカー(さえずる鳥):ヒバリたちの鳴き声、ソンカー島→防災・避難の砦
  • サオビエン(ヒトデ):台風の時期に去る

ベトナムの台風名には【ホアバン】【コメイ】【ルックビン】【バンラン】と不幸な恋から植物に転生した逸話が残されているもの、【ソンティン】【バービー】と水害を抑える山の神様の話、【ハーロン】【ソングダー】とベトナムの国防や資源、【ソンカー】【サオビエン】と水害の予測、と細かく分けると4つに分類できます。【ベトナムになじみがある自然】と【ベトナムの危機管理による場所や生物】にしてもまとまりとなりそうです。

ほかの国の台風名が気になる方はこちらもご覧ください。

アジア各国の台風名の特徴
台風名に関する記事では、台風の名づけはアジア各国の文化を反映し、地域ごとに異なる特徴があることが説明されています。日本は星座名を用い、中国は神話や植物名、アメリカは人名を採用。各国の名づけの意図や背景を探る楽しさが綴られています。

コメント

タイトルとURLをコピーしました