台風名から学ぶ北朝鮮

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台風が過ぎ去ったにも関わらず、気圧の変化に身体が追いつかない日々を過ごしています。暑かったり、雨だったり、ジメジメとしていたり、と着実に梅雨っぽさがみられますね。前回の韓国の台風名を見ていない方は、読んでみてください。

台風名から学ぶ韓国
6月には台風6号が発生し、日本本土は回避されました。研究を通じて、台風名が各国の文化や信仰に由来していることが分かりました。韓国の台風名には民話や伝承が反映され、再生やエネルギーの象徴としての側面があると考えられます。

国ごとの傾向から台風名の由来を探る記事を日本から開始して、4回目になりました。今のところ、台風名の法則が納得できそうですが、今回紹介する北朝鮮の台風名は少し難しそうな予感がします。それは、下の表を見てわかるように、北朝鮮の台風名はのどかな自然溢れる情景が目に浮かぶものが選ばれているためです。それでは1つずつ紐解いて行きたいと思います。

キロギー(雁:ガン)

北朝鮮を含む朝鮮半島の伝統的な民間信仰や婚礼文化において、キロギー(雁)は「永遠の愛」や「信義」を司る非常に神聖な鳥であり、【永遠の愛の象徴:不倫しない鳥】、【信義の約束:季節を違えない鳥】、【家族の調和の約束:美しい列を作る鳥】として知られています。

【不倫しない鳥】は、キロギーは一度つがい(夫婦)になると、どちらか片方が死んでも、生涯新しいパートナーを作らずに貞操を守ると信じられています。この生態が「死が二人をわかつまで愛を変えない」という夫婦の絶対的な貞節のシンボルとなりました。雁は生涯を一夫一妻制のイメージはありますが、稀に浮気や不倫といった他のメスに繁殖をしかけてしまうオスもいるようです。

【季節を違えない鳥】は、渡り鳥であるキロギーは、秋になると必ず北から南へと正確にやってきます。その姿から「預言や約束を絶対に破らない、嘘をつかない信義の象徴」とされました。これは【帰巣本能】が関係しそうです。

【美しい列を作る鳥】は、空を飛ぶとき、キロギーは綺麗に列を組んで飛び、前の鳥が鳴くと後ろの鳥が応えます。これが「家族が序列を守り、お互いを助け合って和合する」という家庭円満の教訓になっています。 隊列を組み空を飛ぶのは空気抵抗を抑えるためらしく、交代制でリーダーの役割をしているようです。

北朝鮮(朝鮮半島)において、野生の雁は主にシベリアなどの北方から秋に渡ってくる「冬鳥」です。北朝鮮は、シベリアやモンゴルで繁殖した渡り鳥が、韓国や日本、中国南部へと南下する際の「重要な中継地(休憩・採餌場所)」になっているのです。

雁の生態を知るほど、神聖視された理由はわかりますが、台風との関係はどうでしょうか。共通する点は【通過すること】や【台風と同じ時期に到来する鳥】といったところなのかもしれません。

ジョンダリ(ひばり)

ヒバリは、古代の朝鮮半島の民間信仰(シャーマニズム)において、春になると大地の草むらから垂直に天高く(垂直上昇)舞い上がり、空中でホバリングしながら美しく鳴き続けるという生態は「地上の人間の祈りや、春の訪れの感謝を、天の神様に直接届けるために飛び立っているのだ」と信じられていました。天界と現世を行き来できる、神聖な「天の使い」の一面を持っています。

厳しい冬(北朝鮮の気候では特に過酷な極寒)が終わり、農作物を植え始める春になると、ヒバリはいち早く畑の空で鳴き始めます。そのため、伝統的な農耕民話では、ヒバリは「サボっている農民たちに『早く起きて畑を耕しなさい』と神の教えを伝える、勤勉で真面目な鳥」のキャラクターとして定着しているようです。

また、北朝鮮の民話に【ヒバリとお日さま】という逸話があります。昔々、小さくて働き者のヒバリは、天の【お日さま】にお金を貸してあげました。しかし、夏になってもお日さまはカンカンと照りつけるだけで、いっこうにお金を返しにきません。怒ったヒバリは、お日さまに直接「お金を返してください!」と催促するために、毎日天高く飛び上がって叫んでいる(鳴いている)のだ、と語り継がれています。 

このように、ヒバリは、「勤勉さ」「自然のサイクル」「天(神)へのメッセンジャー」を象徴する重要な鳥として描かれていますが、台風をいち早く知らせる勤勉な鳥として名づけられたのかな、と思いました。

ケグリ(カエル)

朝鮮半島において、古代国家・東扶余の【誕生神話:金蛙(金カエル)】というものがあります。簡単なあらすじは、【東扶余・初代国王:解夫婁(ヘブル)】には、年老いても跡継ぎの子どもがいませんでした。ある日、王が山川へ赴き、子宝を授けてくれるよう神に祈りを捧げていたところ、乗っていた馬が「鯤淵(コンヨン)」という池のほとりに立ち止まり、大きな岩を見て涙を流しました。王が不思議に思い、家臣にその岩をひっくり返させたところ、そこには「金色に輝く、カエルのような姿をした赤ん坊」がいました。
王は「これぞ天が私に授けてくださった子供だ」と大喜びし、名前を金蛙(クムワ:金のカエル)と名付け、大切に育てて次の王位に就いたという話です。

また、朝鮮半島の古代神話におけるカエルにはスピリチュアルな意味があり、【水と農耕を司る神聖なシンボル】、【多産と一族の繁栄】、【金(ゴールド)が持つ世界】が挙げられます。

【水と農耕を司る神聖なシンボル】は、古代の農耕社会において、雨を呼ぶカエルは「水神の使い」として崇められていました。金蛙が「池のほとりの岩」から生まれたという描写は、彼が水の神の血を引く、農業を豊かにする特別な王であることを証明しているとのことです。

【多産と一族の繁栄】は、カエルは一度に大量の卵を産むことから、古代から「豊穣」や「子孫繁栄」の象徴とされてきました。子どもができずに悩んでいた老王のもとに、カエルの姿をした赤ん坊が現れたのは、国家の永続性を約束する最高のお告げであったようです。

【金(ゴールド)が持つ世界】は、ただのカエルではなく「金色に輝くカエル」である点も重要です。金は太陽や天界の光を意味し、地上を治める王としての神聖な権威(天孫降臨の系譜)を表しています。

このように、北朝鮮において蛙は水神の使いや、繁栄と神聖視され、台風の到来は恵みをもたらす象徴なのかもしれません。

ポードル(やなぎ)

ヤナギは単なる樹木ではなく、【最高位の水神の系譜】【国の聖なるシンボル】【不屈の生命力】を表す非常に重要な植物とされています。

朝鮮半島の古代建国神話(扶余神話)において、ヤナギはもっとも神聖な植物として登場します。柳花夫人は、水を司る最高神である海神(河伯)の娘です。天帝の子である解慕漱(ヘモス)と恋に落ち、のちに「太陽の光」によって身ごもり、【英雄:朱蒙(チュモン)】を生み、朱蒙を高句麗を建国したのです。

ヤナギは水辺(川や池のほとり)に自生する植物です。そのため、古代の朝鮮半島においてヤナギは「水神(水の霊力)の象徴」であり、同時に春にいち早く美しい芽を吹くことから「豊穣と生命の女神」そのものを表していました。この神話により、朝鮮民族のルーツには「ヤナギ(ポードル)の聖なる血」が流れていると語り継がれています。

また、ヤナギの枝は非常にしなやかで、強い嵐や大雪が降っても、ポキッと折れることなく風を受け流します。この姿から、伝承や民話では「どんなに強い権力や外敵(逆境)に踏みつけられても、決して屈しない庶民の不屈の精神」の象徴とされました。

このように、北朝鮮の人たちにとってヤナギはしなやかで、様々な恩恵を受けますが、易々と折れることがないため、自分たちに害を与える存在になった時には困難なものとして台風名になったのかな、と思いました。

カルマエギ(カモメ)

朝鮮半島の伝統的な民謡(民謡やパンソリなど)や詩において、カモメは「海と共に生きる人々の哀愁」や「離れた故郷(あるいは分断された南北)を行き来できる自由な存在」の象徴としてしばしば登場します。

また、朝鮮半島の沿岸部や島々には、世界的な海洋伝承とも共通する「海で遭難して亡くなった水夫や漁師の魂がカモメに姿を変えた」という民俗信仰があり、漁師たちの間では「カモメを傷つけると海の神の怒りを買い、大嵐や難破に見舞われる」として、非常に大切に扱われていました。

北朝鮮には、10種類以上のカモメが到来し、大きく「北朝鮮で繁殖(子育て)する種類」と「主に冬を越すために飛来する種類」に分けることができ、世界的な希少種も含まれているようです。

このように、カモメは自由な象徴である一方で、民族信仰で大切にされてきた背景もあります。カモメを傷つけると海の神が怒ること(台風)として、台風名にされたのかなと思いました。

ノウル(夕焼け)

朝鮮語の「ノウル(朝焼け・夕焼け)」は、厳しい自然の中でも美しく心を洗う情景として、北朝鮮や韓国の人々にとって非常に親しみ深く、愛されている言葉です。

朝鮮半島の陰陽思想で【火(南)と水(北)の調和】というものがあります。朝鮮半島の土着のシャーマニズムや伝統思想において、太陽が沈む「夕焼け」の赤い光は、単なる一日の終わりではなく、「陽(火・生)のエネルギーが、陰(水・死)の世界へと移り変わる神聖な境界の時間」とされてきたようです。

また、【郷愁と哀愁の象徴】として、朝鮮半島の古い民謡や詩では、夕焼けはしばしば「一日の過酷な農作業を終えた人々を優しく包み込む光」や「離れ離れになった家族・故郷を思い出す媒介」として登場します。美しくもどこか切ない伝承的イメージが定着しています。

このように、北朝鮮において【夕焼け】は神聖な境界の時間であり、台風の過ぎ去りは湿気を吸収して居心地の気候へと変化があります。その辺の着想が名づけなのかな、と思います。

スリゲ(鷲の名前)

朝鮮半島の土着信仰や民話において、トビやワシなどの猛禽類(総じて「スリ」の系統の鳥)は、カモメとはまた異なる強力な神格を持っています。余談になりますが、国鳥の【オオワシ:チャムメ】は2023年から【カササギ:カッチ】に変更されたようです。

【英雄や建国の象徴】として、古代朝鮮の神話(高句麗のチュモン神話など)では、空を高く鋭く舞う猛禽類は、「天の神の意志を地上に伝える使者」、あるいは「英雄の誕生を守護する鳥」として崇められていました。

また、【悪霊を退ける「厄除け」の鳥】として、民俗信仰では、トビやタカは鋭い爪と視力で「病魔や邪悪な鬼(トッケビや悪霊)を引き裂いて追い払う」力があると信仰され、古い朝鮮の家庭では、魔除けのお守り(符籍)として鳥の絵が描かれることもあったようです。

このように、スリゲは空からのお告げを運ぶものであり、台風などの災害を防いで欲しいといった願いが込めて名づけたのかなと思いました。

ミンドゥル(たんぽぽ)

朝鮮半島の伝統的な民話や言葉において、タンポポには切なくも力強い「一途な愛」や「強靭な生命力」の伝承があります。 

【一途なミンドゥル(一片丹心ミンドゥル)】は 朝鮮半島の有名な言葉(定型句)で、「一途で決して変わらない赤心(真心)」を意味します。 

【純愛の伝説】において、「戦争に赴いた夫を何年も待ち続け、ついに命を落とした若き妻の墓から咲いたのがミンドゥル(タンポポ)だった」と語り継がれています。そのため、この花は「究極の純愛」や「忠節」のシンボルとされています。 

【踏まれても立ち上がる象徴】として、タンポポはどんなに人や車に踏まれても、春になると必ず黄色い花を咲かせます。この姿が、数々の歴史的試練を乗り越えてきた朝鮮民族の「不屈の精神」や「粘り強い生命力」に重ね合わされ、民謡や文学で好んで用いられます。

朝鮮半島の在来種のタンポポは【コウライタンポポ(黄花)】【モウコタンポポ(黄花)】と【シロバナコウライタンポポ(白花)】【ケイリンシロタンポポ(白花)】があります。花言葉は【一片丹心(イルピョンダンシム):一途な愛、決して変わらない真心】と【愛の信託:愛の誓い、神に委ねられた愛】の2つの意味があるようです。

このように、タンポポは何があってもめげることの無い強い生命力があります。北朝鮮の人たちが台風に追いやられても負けることのないといった信念が込められているのかもしれません。

メアリー(やまびこ)

朝鮮半島の神話や土着のシャーマニズム(ムソク)において、山から返ってくる【やまびこ:メアリー 】は、山を支配する絶対的な神である【山神:サンシン】の魂や声そのものであると信じられてきました。朝鮮神話において、山は神が天から降り立つ最も神聖な場所(降臨地)です。【神の返答】と【禁忌】の2つの伝承があります。

【神の返答】は人々が山に向かって祈りや願いを叫んだとき、山から返ってくる「やまびこ」は、山神がその願いを聞き届けたという「神託(神の意思)」として捉えられていました。

【禁忌】は山を汚す者や、不浄な心を持つ者が山で大声を出すと、山神の怒りが恐ろしいやまびこの反響(怪音)となって返り、その者は山で迷子になるか、病に倒れるという神話的な戒めが語り継がれています。

このように、【やまびこ】は神様の姿であり、台風のように荒々しい姿は生活を見つめ直すきっかけとなるため、名づけられたのかもしれません。

ツァンザリー(トンボ)

農耕民族である北朝鮮の人たちにとってトンボは「実り豊かな秋の空を象徴する、最もなじみ深い虫」です。朝鮮半島の土着のシャーマニズムや古い民話において、トンボは「天(神の世界)からの祝福」や「季節の巡り(神の調和)」を伝える益虫として、非常に縁起の良いイメージを持っています。

朝鮮半島の農耕伝承において、夏の終わりにトンボが群れをなして飛ぶ姿は、穀物の豊作を司る穀霊(神様)が地上に降りてきたサインと信じられていました。トンボが多く飛ぶ年は「神から豊作を約束された年」として喜ばれました。

また古い怪談や地域の昔話では、「人間が眠っている間、その人の魂が一時的にトンボの姿を借りて空を飛び、世界の様子を見て回っている」という不思議な魂の伝承も語られています。

このように、トンボがいることは祝福であり、台風とは紐づけがしにくいですが、恵みを持ち込むものとして縁起をイメージしているのかもしれません。

北朝鮮の台風名の紹介でした。台風と直結した解釈ではなく、北朝鮮の民にとって縁起のあるものが選出されていたのかもしれません。だからこそ、農耕民族としての馴染みある慣習や言い伝えが台風名に挙げられているようでした。そのように考えると以下のようにまとめられます。

  • 雁   :永遠の愛の象徴、信義の約束、家族の調和の約束
  • ひばり :勤勉さ、自然サイクル、神への使者
  • カエル :水と農耕を司るシンボル、多産と一族の繁栄、金運
  • やなぎ :最高位の水神の系譜、国の聖なる象徴、不屈の生命力
  • カモメ :海と共に生きる人々の哀愁、離れた故郷を行き来できる自由な存在
  • 夕焼け :エネルギーの移り変わる境界、郷愁と哀愁の象徴
  • 鷲の名前:英雄や建国の象徴、魔よけの鳥
  • タンポポ:一途の愛、強靭な生命力
  • やまびこ:神の返答、神罰
  • トンボ :天からの祝福、季節の巡り

台風の名づけには愛や守護のような良い意味合いが多く、慣習として残しておきたいものを名づけにしていると考えられます。日本では星座、中国では神話、韓国では悲劇からの教訓、とバラバラであるものの、その国においてなじみが深いという点では変わりないのかもしれません。各国の神話や歴史の勉強をしてみることで、理解が深まるのかもしれませんね。

台風の名称にどのような傾向があるのか
2026年5月末に発生した台風6号「チャンミー」をきっかけに、台風の名称の由来や各国の名づけの方法について解説されています。日本は星座名を使用し、中国は神話や植物、韓国は生物に基づく名前をつけています。この名称によって文化理解や防災意識を高める目的があることが示されています。

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