アメリカの台風名の背景と意味

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こんにちは、日本から始まり第5回目の台風の名づけはアメリカです。アメリカは台風のことをハリケーンと呼び、ハリケーンの名前は世界気象機関(WMO)で管理された6つのリスト(各21個の名前)がサイクルとして使用されているようです。しかし、今回の話ではWMOを中心とした台風名ではなく、台風委員会で選出された台風名の紹介をしたいと思います。

前回紹介した北朝鮮の台風名は慣習や言伝えを忘れないように残していくことを意識されていました。まだ読まれていない方はぜひご覧ください。

北朝鮮の台風名に込められた意味とは
台風名についての調査では、北朝鮮のさまざまな自然象徴が選ばれています。雁やひばりなどは愛や勤勉さを表し、水神や自然の力と結びついています。台風名は、文化や民話に根ざしたポジティブな意味を持つものが多いと考えられます。

マリア(女性の名前)

マリアといえば、2016年に出現した大型ハリケーン【マリア】は、あまりの被害の大きさから大西洋のハリケーン名リストから抹消されるといった永久欠番になった名前です。米自治領プエルトリコやカリブ海諸国を直撃し、数千人の死者を出す歴史的極大災害となりました。

また、アメリカ南部〜南西部(テキサスやカリフォルニアなど)のヒスパニック文化圏で語り継がれている『ラ・ジョローナ(La Llorona / 泣き女)』の伝説という怪談です。簡単な概要はマリアという名の美しい女性が、浮気をした夫への怒りと絶望から、自分の子供たちを川で溺死させてしまい、自らも後を追います。しかし罪の重さから天国へ行けず、白いドレス姿の幽霊となって「私の子供たちはどこ?」と泣き叫びながら水辺を彷徨い続けるという物語です。

もともとはメキシコの古い怪談ですが、アメリカのテキサス、アリゾナ、コロラド、カリフォルニアといった旧メキシコ領の地域に深く根付いています。アメリカでは「夜遅くに川や用水路の近くで遊んでいると、マリアに子供と間違えられて連れ去られる(または溺れさせられる)」というしつけのための戒め(都市伝説)として、親から子へ語り継がれているようです。

個人的には【聖母マリア】が連想されましたが、台風と関連するのであれば【ラ・ジョーナ】のように、戒め的な解釈の方が台風名としてふさわしいのかなと思いました。

バリジャット(風や波の影響を受けた沿岸地域)

バリジャットはアメリカの属領(準州)であるオセアニアの島国マーシャル諸島の言語(マーシャル語)に由来しており、「台風(ハリケーン)などの大嵐によって影響を受ける沿岸や、ラグーン(潟湖)の海岸線」という具体的な土地を指す言葉です。

ラグーンは、独自の豊かな生態系(マングローブや海草、魚類の産卵地)を持つ繊細な水域で、砂州(さす)やサンゴ礁によって外海から隔てられた浅い水域のことです。そのため、【水位の急上昇】や【全方位からの浸水】といったリスクもあります。

また、バリジャットに指定された【ラグーンの海岸線】は、台風(ハリケーン)の襲来時にアメリカで最も甚大かつ壊滅的な水害が発生する場所の一つです。台風によって、沿岸の街から汚水、ガソリン、ゴミ、農薬などがラグーン内へ一気に流れ込むこともあります。これらが溜まることで、水質が数ヶ月以上にわたって著しく悪化し、地元の漁業や自然環境に数年規模の致命的な打撃を与えてしまいます。

台風の被害を受けやすい地域は、フロリダ州ルイジアナ州テキサス州などのメキシコ湾沿岸大西洋南部の沿岸地域であり、1851年以降にアメリカ本土に上陸したすべてのハリケーンのうち、約4割がフロリダ州に上陸しているようです。

このように、バリジャネットは被害の受けやすいところであり、台風や水害に意識を向けるために必要な知識として、台風名とされているのかもと思いました。

フランシスコ(男性の名前)

【フランシスコ】は、カリフォルニア州の開拓伝承の由来であるアッシジの【聖フランシスコ(カトリックの聖人)】や、そこに深く根付く奇跡やフォークロア(民間伝承や口承文学)が残されています。

18世紀、スペインの修道士たちがキリスト教を広めるため、カリフォルニアの沿岸部に【伝道所】と呼ばれる拠点を次々と建設しました。伝道所の総責任者であった【ジュンペロ・セラ神父】が「私たちの創設者である聖フランシスコのための伝道所はどこにするべきか」と尋ねた際、当時の総督が「聖フランシスコが自ら素晴らしい港を見つけたら、そこに彼の名を付けよう」と答えました。その後、修道士たちが偶然にも霧の奥に広大な美しい湾(現在のサンフランシスコ湾)を発見したため、これは「聖フランシスコが導いてくれた奇跡だ」としてその名が付けられたという歴史的な伝承があります。

アリゾナ州フラッグスタッフの近くには、【サンフランシスコ・ピークス】という高山地帯があります。1620年代にスペインの修道士たちが、アッシジの聖フランシスコに敬意を表してこの山々を命名しました。しかし、伝統的なアメリカインディアン(ナバホ族やホピ族など)にとっては、この山々は「世界を支える聖なる4つの山」の一つであり、神々や精霊が住む場所として、キリスト教の伝承よりも遥かに古い神話が今も語り継がれているようです。

他にも、怪談があるようですが、キリスト教と密接に関わり、港や山に名づけられる程の影響があります。おそらく、台風の名前にも【聖フランシスコ】の知名度が名づけになったのかもしれませんね。

マットゥモ(大雨)

アメリカの領土であるグアム島や北マリアナ諸島の先住民族の言葉で【大雨】を意味します。グアムの年間降水量は、平均して約2,500mm〜3,000mmに達し、これは日本で最も雨が多い地域の一つである高知県や三重県と同等か、それ以上の非常に多い雨量です。

グアムは典型的な熱帯海洋性気候であり、年間を通じて高温多湿の環境ですが、雨の降り方は【雨季】と【乾季】で大きく二極化します。

雨季(7月〜11月)は、年間降水量の約7割が集中します。月間降水量が300mm〜400mmを超える月が多く、激しいスコール(一時的な豪雨)が頻繁に発生します(マットゥモ)。また、台風の接近・上陸によって記録的な大雨になることも少なくありません。

乾季(12月〜6月)は、非常に過ごしやすい時期です。月間降水量は100mm〜150mm前後まで減少しますが、完全に雨が降らないわけではありません。青空が広がり、降ってもすぐに止む軽いスコールが中心となります。天気雨のようなものでしょうか。

また、グアム島は淡路島ほどの小さな島ですが、地形の影響で南部の方が雨が多くなりやすい特徴があります。

南部(山岳地帯)は、標高の高い山が連なるため、湿った空気がぶつかりやすく、年間降水量が3,000mmを超えるエリアがありますが、タモンなどの主要リゾートや国際空港がある北部(台地)は、比較的平坦なため、南部よりはわずかに降水量が少ないようです。

このように、マットゥモはグアムの方で主要な言葉であることがわかりました。マットゥモが台風のようなものであり、本土のアメリカ人にも伝わるように名づけが選ばれたのかもしれません。

ヒーゴス(イチジク)

アメリカの領土であるグアム島や北マリアナ諸島の先住民族の言葉で果物の「イチジク」を意味します。花言葉は「不屈(Resilience)」「知識・知恵(Knowledge / Wisdom)」「平和(Peace)」「繁栄(Prosperity)」などがあり、花言葉とうよりも【歴史的・宗教的なシンボル(象徴)】として深く根付いているようです。

【知識・知恵】の逸話は、聖書の中で、アダムとイヴが知恵の木の実(禁断の果実)を食べた後、裸を恥ずかしく思って身にまとったのが「イチジクの葉」でした。このことから、人間の知識の目覚めや知恵を象徴します。

【繁栄・平和】の逸話は、聖書に「誰もが自分のブドウの木とイチジクの木の木陰で、恐れることなく暮らす」という平和な理想郷が描写され、豊かさと平和な暮らしの象徴とされています。

【不屈】は、イチジクの木は生命力が非常に強く、乾燥した土地や岩場でも深く根を張って育つことから、困難に立ち向かう強さを表します。 

主な収穫時期は5月〜12月(特に8月〜10月が最盛期)であり、アメリカで流通する乾燥イチジクの100%、生食用イチジクの98%がカリフォルニア州で栽培されています。【ブレバ(5月から6月)】と【メインクロップ(8月から12月上旬)】と収穫時期で実の形状が違うらしいです。

今のところ、イチジクがアメリカの台風名に挙がる理由が見当たらず、逸話を探してみることにしました。1)初代大統領のジョージ・ワシントンの大好物であり、わざわざヨーロッパから優れた品種の苗木を取り寄せて植えていたこと、2)【ブラック・ミッション】という品種は、未開拓のカルフォルニアが乾燥地帯であったにもかかわらず、実をつけることができたため、開拓者の栄養源となったこと、3)国民的お菓子に【ニュートン】なるものがあること、ありました。

【ニュートン】はアメリカ人なら誰もが子供の頃から食べている、130年以上の歴史を持つ超ロングセラーのクッキーで、マサチューセッツ州の製菓会社が、イチジクのジャムを柔らかいクッキー生地で包む機械を開発し、量産に成功したのが始まりです。

開拓史や国民的お菓子と関連されるため、アメリカ人にとって、イチジクは生命線であり、それを教訓に台風名とされているのかもしれません。

アータウ(嵐雲)

オセアニアの島国パラオの言語(パラオ語)で「嵐雲(Storm cloud)」を意味する気象の言葉で、気象現象の最大の特徴は、「湿った空気の流入」と「前線の停滞」が重なることで発生する、記録的な「大雨・集中豪雨」です。

嵐雲は、気象学の正式な分類(十種雲形)において、【積乱雲】または【乱層雲】という2つの雲のいずれかを指します。積乱雲は「嵐雲」と聞いて多くの人がイメージする、塔のように空高く巨大に湧き上がる雲で、乱層雲は空全体を厚く、暗い灰色で覆い尽くす、非常に幅広く広がる雲です。嵐雲もこうした【これから急激に天気が大荒れになる、恐ろしくも生命力に満ちた自然の雲】を表現した言葉だそうです。

パラオ諸島は、アメリカがパラオの土地を完全に「所有(領有)」しているわけではありませんが、安全保障を担保する見返りとして、軍事目的での土地、領海、領空への独占的かつ無制限のアクセス権(排他的利用権)が認められるといった関係があります。

また、パラオ諸島は、2月〜4月が比較的雨が少なく「乾季」に近い扱いを受け、6月〜8月が最も降水量が多い「雨季」にあたります。一日中ずっと雨が降り続くことは少なく、青空から突然激しい豪雨(スコール)が数十分間降り、その後また晴れるというパターンが一般的であるそうです。要するに、年間を通じて雨が多く、年間平均降水量は約3,744mmに達する熱帯雨林気候なのです。

初めは「パラオ諸島ってアメリカだったかな」と関係が分かりにくかったですが、【自由連合盟約】といった政治的関係性があることがわかりました。また、上記の説明を見るところ、パラオ諸島の嵐雲は突発的な雨のため積乱雲なのかな、と考えられます。

赤道に近く、台風の発生がパラオ諸島周辺であることから、水害への教訓がアメリカ人に知れ渡るように名づけがされているのかもしれません。

オーマイス(徘徊)

パラオ語の【オーマイス】は、「目的もなくうろうろと彷徨(さまよ)う」という行動を表す言葉です。確かに、台風は西から東北へと駆け抜けるだけではなく、ジグザグとし、時に過ぎ去ったと思ったら元の地点に戻ってこようとすることもあります。日本だと何年かに1回はそういった台風の進路が読めないこともあります。

今まで紹介してきたように、アメリカの台風名は直接的な意味をつけている傾向にあります。その背景を調べたところ、「現地の先住民が何世代にもわたって自然への畏怖を込めて使ってきた言葉であり、これ以上に台風の脅威を的確に伝える名前はない」と主張し、採用されたそうです。

アイレー(嵐)

マーシャル諸島の言語(マーシャル語)で、激しい雨風を伴う天候の荒れ、つまり「嵐」そのものを指します。

マーシャル諸島はすべての島が【サンゴ礁の砂】だけでできた平坦な島(環礁)で、山や川が一切ないため、どれだけ大量の年間降水量(4,000mm)があっても、雨水はそのまま地面(砂)を通り抜けて海へ流れていってしまいます。そのため、現地の人々は「降った雨水をいかに大きなタンクに貯めておくか」が生死に関わる命綱となっています。

また、マーシャル人の古いスピリチュアルな信仰には、自然界のいたるところに悪霊や精霊がいるとされ、特に海やラグーンの境界、または特定の神聖な木には【エキブ(Ekjab)】と呼ばれる強力な精霊が宿っていると信じられていました。

もし人間が海の資源を荒らしたり、タブー(禁忌)を破ったりしてエキブの怒りを買うと、夜の間に凄まじい嵐が引き起こされ、その人間の家がある【バリジャット(沿岸の土地)】を波で削り取って海に沈めてしまうという伝承があり、自然を敬うための戒めとされていました。

歴史的な背景から実質的に一つの運命共同体を示すアメリカとマーシャル諸島の関係があります。マーシャル諸島の知恵をあやかり、台風名にしたのかな、と考えられます。

ロウキー(男性の名前)

「ロウキー(Roke)」は、アメリカの属領であるグアム島の先住民チャモロ人の言葉(チャモロ語)で、【カトリックの聖人:聖ロクス(Saint Roch )】を指す伝統的な男性名です。

聖ロクスは、中世ヨーロッパでペスト(黒死病)などの感染症・疫病から多くの人々を救ったとされる、歴史上非常に高名な聖人で、自身もペストに感染しながら奇跡的に生き延びたことから、【不屈の精神】や【災いからの守護】の象徴とされています。

17世紀以降、グアム島がスペインの統治下に入った際、島民の多くがキリスト教カトリックに改宗しました。その際、島を襲った疫病や大嵐といった「災厄」から命を守ってくれるよう願いを込め、多くの父親が自分の息子にこの聖人の名(チャモロ風の発音で『ロウキー』)を授けるようになったみたいです。

台風委員会に提出する時に、「ロウキー」か「ロウク」かで一悶着あったようですが、チャモロ人の発音が採用されたそうです。そのため、ただの一般的な人名ではなく、「どんな大嵐(災害)が来ても、聖ロクスのように力強く生き延び、人々を救う存在であってほしい」という、現地グアムの深い歴史と願いを込めて選ばれたようです。

ラン(嵐)

グアム島の先住民の言葉(チャモロ語)で「嵐(Storm)」を意味します。チャモロ人にとって嵐はどのように捉えているのか調べたところ、【嵐を司る精霊:タオタオモナ】や【雨の夜の精霊:ドゥヘンデ】という信仰があるようです。

【タオタオモナ】はチャモロ語で「以前の人々(先祖の霊)」を意味し、彼らは今もジャングルの大きな木(バニヤンツリーなど)や岩場に住み、人間が自然を汚したり敬意を払わなかったりすると、怒って「激しい大雨(マットゥモ)」や「猛烈な暴風(ラン)」を呼び起こして人間を罰すると恐れられていました。そのため、現地の人々は今でもジャングルに入る際、「お邪魔します」と先祖の霊に許可を求める習慣があります。

【ドゥヘンデ】は、小さな泥棒妖精(トロール)の伝承で、彼らは普段は身を隠していますが、「風のない、激しい雨の夜」に最も活発に動き出すという面白い特徴を持っています。雨が降りしきる中、ドゥヘンデたちはジャングルのツルを使って縄跳びをしたり、濡れた木の葉を滑り台にして遊んだりします。もし嵐の前の静けさや雨の夜に子供が外ではしゃいでいると、ドゥヘンデに気に入られてジャングルの奥へ連れ去られてしまうという、親が子供を戒めるための怪談として語り継がれています。 

このように、チャモロ人の信仰を元に、危険を伝える手段として、台風名に選ばれたのかもしれません。

アメリカの台風にはどのような傾向があるか、まとめに入ろうかと思います。大別して2つに分けられるのかなと思います。

自然・気象系(現地語)
バリジャット(沿岸)、マットゥモ(大雨)、ヒーゴス(イチジク)、アータウ(嵐雲)、オーマイス(徘徊する)、アイレー(嵐)、ラン(嵐)

アメリカ伝統の人名系(キリスト教関係者)
マリア(女性名)、フランシスコ(男性名)、ロウキー(男性名)

アメリカの台風名から色々な伝承を調べてみました。最初は「単調な名づけなのかな」と思っていましたが、調べていくうちに、この単語にはこんな伝承や信仰があるのか、オセアニアの言語から選出されたものもあるのか、と驚きが沢山ありました。より深く、土地とか信仰がしれたら面白いのかなと思いました。

アジア各国の台風名の特徴
2026年5月末に発生した台風6号「チャンミー」をきっかけに、台風の名称の由来や各国の名づけの方法について解説されています。日本は星座名を使用し、中国は神話や植物、韓国は生物に基づく名前をつけています。この名称によって文化理解や防災意識を高める目的があることが示されています。

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